【反応連鎖platform1】Nadegata Instant Party 「24 OUR TELEVISION」

2010年6月26日(土)-27日(日)[24時間ライブ放送]、7月3日(土)-7月19日(月・祝)[ドキュメント展]

PROCESS

状況を設計する̶―劇場的、あるいは遊戯的な行為と場の構築

服部浩之

たった24時間だけの生放送のテレビ局をつくる。一見簡単で、馬鹿げているようで、目的も不明なこのプロジェクト。なぜ24時間テレビを素人だけでつくる必要があるのか? その目的は、むしろ与えられた状況への応答として、その実現への過程をより効果的に築き上げて いくために逆算的にあらわれるというのがナデガタの特徴だ。
彼らにとって「インターネット放送の24時間テレビをつくる」というのはあくまで口実で、それを実現するために様々な人と交わり多様な出来事や関係を引き起こしつつ築かれていくプロセス自体と、そのプロセスをいかに記述していくかが重要である。そのた めプロセス生成の口実となる目的は、映画づくり、24 時間テレビの放送、あるいは公民館の運営と、常に極めて具体的で目標が明確で多くの人が共有可能なものでなければならない。つまり、ナデガタの作品とはみんなで一丸となってつくりあげたもの自体というより、その過程で生成する出来事や可視化された関係性にあるのだ。
ではナデガタがいかにそのプロセスをつくりあげていくかを、彼らの有する3つの能力に言及しその手法を具体的に考察してみよう。

まずひとつには、所与の状況を読み解く能力の高さが挙げられる。彼らの設定した「24時間テレビをつくる」という目的が、青森のACACという場所と非常にうまく合致したのは偶然ではなく、現場の状況を読み込みその状況に最適なミッションを素早く設定するというナデガタの能力の賜物なのだ。具体的に述べると、作家が生活しながら制作をするレジデンス施設であるACACの特徴を利用することで、普通の美術館ではなかなか困難な24時間開館 という問題を容易にクリアし、さらに生放送用のスタジオを設置しそこに24時間観客を招き続けるという状況を違和感なくつくりだした。次に、人口 30万人で決して大きなまちではないが様々な職種の人がいて、そういう異なったタイプの人間がつながりやすいという青森市の都市スケールを上手く活用すべく、彼ら自身がテレビや新聞などのマスメディアに頻繁に露出し、用途に応じた広報物を多種類つくり丹念に配布した。同時に市外の人々をも 巻き込むべく、twitter、mixiや独自SNS、ブログなどあらゆるマイクロメディアにもこまめに情報を発信し、各地の人とのコミュニケーションを密にとった。この広報活動自体をプロジェクトの一環に取り込む手法で、インターネット放送のテレビ局を大勢の素人スタッフと手作りでつくっていると いうことを様々な層に向けてアピールし、少し市街地から離れたACACという場に多数の人を呼び込み、ネット上では全国から参加できる仕掛けをつくった。また、取材等で出会った本職のマスコミの人間をもいつの間にかプロジェクトスタッフとして取り込み、放送に関しては素人のみんなと同等の 関係で作品をつくる状況も築き上げた。さらに公立大学法人のアートセンターであるという状況も活用すべく、青森公立大学の大学生が参加しやすい 環境を整え、彼らがプロジェクトにとって必要不可欠な状態になるように導き一緒にプロジェクトを推進するなど、実に鮮やかに直面する要素を自分たちのプロジェクトの内部に、むしろ相手の方から進んで参加するように取り込んでいったのだ。
つぎに人のキャラクターを鋭く捉える能力。相手が心地よいと思えるくらい機敏にその人の持っている特徴を捉え、その人に適した役割を名付けることで与えていく。それにより全員が自分の能力とやるべき仕事を明確に意識し、積極的に活動する関係を築いていく。普段はうちに引きこもりがちであったり、集団に属せないような社会的弱者とされる人々とのコミュニケーションも円滑に進め、そういう人がもともともっていた資質を巧みに引き出し、全ての人がフラットにかかわり合える状況をつくりだすのだ。インスタントにつくられた現場ではほとんど利害関係がないので、だれもが同等の立場で異なったキャラクターとして振る舞うことができ、ひとりひとりのキャラが立つことにより状況は進展していく。
そして最後のひとつが余白づくりの巧みさである。彼ら自身は無意識かもしれないが、他者が安心できる「すき」や「ゆとり」を常に最大限に保持しているのだ。最初は「24時間テレビをつくる」というキャッチーで変幻自在なゆるいフレームを設定し、ちょっとだけ興味があれば誰でも参加して何かしらできることがあるという状況をつくりだす。実際細かいことはなにも決まっていないので、「すき」や「余白」は相当にあるのだ。そして参加者 全員がそれぞれの役割を持って参与することでその「余白」を埋めていき、プロジェクトを推進するという状況を鮮やかにつくってしまうのだ。ナデガタ自身が最大限の「すき」をつくることにより、相手の懐に入り込み、その人の「すき」を最大限に引き出す。「すき」を共有するというのは心地よいもので、これによりコミュニケーションは円滑に進んでいく。24 時間テレビをつくるという目的を達成しナデガタが去ったあとでも、「すき」を共有した人同士は新たな興味や目的をもって自分たちで自立した関係を築いていく。ナデガタはそのプロジェクトによって、それまでその地域がもっていた人材などの目に見えない価値を表舞台に引き出し、彼らが独自のコミュニティを築くという新たな状況を残していくのだ。

以上の3点により、最大限の共有可能性と双方向性を担保しながら、彼らはひととひと、ひとともの、ひととこととの新たな関係性を築き上げ、表面 には見えていなかった価値を引き出し、中毒性さえある独自の場を生成していく。このサイトスペシフィックならぬシチュエーションスペシフィックと でもいえるスタンスによる、目的実現に向けて出来事を起こし関係を築き状況をつくっていくという手法で、ナデガタは今後海外など言語・習慣・思考回路がまったく異なる地に乗り込んだ場合、どのような状況を築いていけるのだろうか。その先の展開に期待したい。