いのちの裂け目ー布が描き出す近代、青森から

2020年4月11日(土)~6月21日(日)

The Beginning of Life/Art: Cloth Weaves Our Times, from Aomori

人は産声を上げるときから死ぬまで、布につつまれています。それは物理的にも精神的にも私たちを守るものであり、何者かを示すものでもあります。世界各地でその土地の風土に合わせ、様々な布が作られ使われてきました。布を作るためには動植物を引き裂いて皮を用いたり、繊維を取り出し紡いだり、織ったり、編んだり。まとうためには布を裁って縫い合わせたりと、破壊と再生が繰り返されています。かつてフランスの思想家ジョルジュ・バタイユは、大地の「裂け目」である洞窟のなかで、先史時代に壁画を描くことで人間性が獲得されたこと、労働の有用性を否定することで遊びとしての芸術が誕生したことを語りました(*1)。
本州の最北端であるここ青森には、厳しい冬があるからこそ生まれた、独自の豊かな文化が存在します。布に関わるものでは、裂織や刺し子、ボロなど。それらは農村の暮らしを反映したものであり、制約のなかで色や柄を工夫する手仕事の楽しみでもあり、時にジェンダーなど規範意識との戦いでもあったでしょう。決してこれらについて、簡単にアートだと言いたいわけではありませんが、作ること身につけることの歓びや、ものが多くを語りかけてくることは事実です。
当館で行ってきた「青森市所蔵作品展」の流れを汲む本展では、アジアを拠点として手芸や工芸、伝統文化の技術をもとに現代美術の活動をするアーティスト3名が、青森市教育委員会が所蔵する民俗資料(*2)から発想した新しい作品、文化財を用いたインスタレーションを展観します。どうやら戦前の女子教育や戦争と花火、台湾原住民族と日本の関わりなど、現在と地続きである人々が生きてきた時代について考えることになりそうです。
ものそれ自体から、そしてそれから生まれた表現からも多層的に開いていく裂け目。この傷口を覗き込むことで、国家や民族、家族といった共同体を超えて、それでもひとりでは生きてゆけない私たちが、時をこえてつながる交感の場になればと思っています。

*1 ジョルジュ・バタイユ『ラスコー』1955年
*2 青森市歴史民俗展示館 稽古館が収蔵していたものが、現在は市および市教育委員会文化財課に移管されている。展示館は1977年に財団法人稽古館として開館、1998年青森市に移管された歴史民俗系の博物館。田中忠三郎も館長を務めた。2006年に閉館。

artists

碓井ゆい USUI Yui

1980年東京都生まれ、埼玉県在住。アーティスト。
現代社会において見てみぬ振りをされている出来事や歴史について、個人的な経験や疑問を社会的・政治的なものとして捉え、文献資料やインタビューによるリサーチを通して紐解き、手芸などの身近なテクニックや素材を用いて、平面からインスタレーションまで様々な作品を制作している。主な個展に「shadow work」(小山市車屋美術館、2016年)など。近年「あいちトリエンナーレ2019」(名古屋市美術館等)、「アッセンブリッジ・ナゴヤ2019」(名古屋港一帯)など多数のグループ展に参加している。「VOCA展2018」では大賞にあたるVOCA賞を受賞。

USUI Yui, demands and resistance(要求と抵抗), 2019
Photo: Ryohei Tomita, Photo courtesy: Assembridge NAGOYA Executive Committee
USUI Yui, shadow of a coin, 2013-2018 Photo: Shinya Kigure

遠藤薫 ENDO Kaori

1989年大阪府生まれ、ベトナム・ハノイ/大阪府在住。工芸/美術作家。
沖縄県立芸術大学工芸専攻染織コースおよび、アルスシムラ卒業。生活に根差した工芸の本質を現代美術的な視座から探るべく、テキスタイルに複雑な社会的事実が織り込まれていると考え、布を集め使用と修復の行為を繰り返す。また近年では、沖縄やベトナムを中心とする東アジア各地を訪れ、それぞれの土地の布について調査と蒐集を続けている。主な個展に『重力と虹霓(こうげい)』「第13回shiseido art egg・遠藤薫展」(資生堂ギャラリー、2019年。本展において大賞にあたる第13回shiseido art egg賞を受賞)など。主なグループ展に「Bangkok Biennal 2018『BARRAK : survibes』」(White Line、タイ、2018年)など。

ENDO Kaori, Gravity and Rainbow(重力と虹霓), 2019 Photo: KATO Ken
ENDO Kaori, Uesu (waste), 2018

林介文(リン・ジェーウェン/ラバイ・イヨン) LIN Gieh-Wen / Labay Eyong

1982年台湾・花蓮出身、同地在住。アーティスト。
バルセロナ自治大学大学院(展示空間デザイン)修士課程修了。台湾原住民の太魯閣(トゥルク)族の一員として、伝統的な織物の技法を用いながら、ジュエリーデザインの知識も活かし、彫刻的なインスタレーション作品を制作している。時にコミュニティの織り手たちとも協働しながら、特に女性の身体性やアイデンティティーなどに焦点を当てている。台湾では国際展など多くの展覧会に参加しているが、日本での作品発表は初となる。主な展覧会に「2016 Taiwan Biennial: The Possibility of an Island」(国立台湾美術館)、「Hiding in the island」(台北当代芸術館、2017年)など。

LIN Gieh-Wen(Labay Eyong), weaving roads(織路), 2015-2016
LIN Gieh-Wen(Labay Eyong), Red Dinosaur, 2019

主催|青森公立大学 国際芸術センター青森
協力|青森市教育委員会、AIRS(アーティスト・イン・レジデンス・サポーターズ)、青森公立大学芸術サークル ほか
助成|公益財団法人 花王芸術・科学財団
後援|台北駐日経済文化代表処台湾文化センター、NHK青森放送局、青森テレビ、青森放送、青森朝日放送、青森ケーブルテレビ、エフエム青森、東奥日報社、陸奥新報社、デーリー東北新聞社